私はずっと音に悩まされていて「カチッカチッ」っていう音が部屋で鳴っていたんだけれど、それが最近は聞こえない。覚えている限り過去を遡ると実家にいる20代前半の頃から部屋でその音は聞こえていた。怖かったけれど放っておいた。いや最初は怖さも感じなかった。部屋のどこかのきしみ音かもしれないとも思っていた。その音はずっと止むことがなかったし生活の一部になっていて特に害はなかったので誰にも相談したりはしていない。意識してないのではっきりしたことは言えないが実家でのその音は実家脱出のための引越しの時まで続いた。20年以上鳴っていたことになる。
私は引越して新しい部屋に住むようになった。そこでもまた音が聞こえる。さすがに疑問に思った。音が“ついてきている”“追いかけられている”? でも怖いけど害はない、人の声でもサイレンの音でもないのだから。
私はあるとき調べた。これは“ラップ音”なのではないか。そうかもしれない。そうならば恐れることはない。ラップ音の原因は霊かもしれないという。まぁそうだとしても害はない。怖くないことはないが霊差別?はしたくないし、もしかしたら私を可愛がってくれたおばあちゃんの霊かもしれないではないか。分からないことはそのままにしてその日は寝た。
その音がいつのまにかしなくなった。どこに行ったの。何で止まったの。私のとこが嫌になったの。もしかして新しい住処を見つけたの?
私の部屋は何となく住みやすくなった。けれど音がしないのは心地いいが寂しくもあった。霊だったとしたら成仏したのだろうか。一体この20年ほどの音との付き合いは何だったのだろう。
考えられるのは幻聴だったのかもしれないということ。意味のある言葉やうるさい音ではなかったけれど可能性はある。そうであってもおかしくはない。小さくて日常生活に支障をきたさない幻聴もあるかもしれない。
最近も台所から「ガタンガタン」という音が聞こえていたがいつの間にか止んだ。音の出どころを突き止めるまで外でトタンか何かが音を立てているのだと思っていた。台所だと気づいてしばらくしたら音は止んだ。私は音に呪われているのだろうか。
でもこういうこともあるよねと自分をなだめている。気にしだしたらキリがない。しょうがないと認めて諦めた方がいい。今のところ暮らしていくのに害はないしその音にも何か意味があったのかもしれない。今まで私のとこにいたけれど何かが起こりお役御免となったのかもしれない。世の中、不思議なことは多々あるのだから悩んでもしょうがない。
今のところ聞こえていた音は全く聞こえず換気扇の音がガーと聞こえる程度の毎日だ。
あの音が何だったのかは分からない。消えてしまった。
分からないことはどうしょうもない。考えの及ばないところはそっとしておこうと思う。
ではまた。